学術会議会員の任命拒否に思う

現在国会では、日本学術会議の任命拒否について議論されています。

「日本学術会議法」第7条では、「会員は、第17条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」としています。

総理大臣は会議から推薦された会員の任命を拒否できるのか、そこが問題になっています。

中曽根首相は国会で「学会あるいは学術団体からの推薦に基づいて行われるので、政府が行うのは形式的任命にすぎない。」と答弁しています。

2004年に会員推薦方法が学会推薦から学術会議が推薦する方法に法改正がされましたが、この改正に際して、総務省が内閣法制局に提出した法案審査資料では「日本学術会議から推薦された会員の候補者につき、内閣総理大臣が任命を拒否することは想定されていない。」としています。

つまりこれまでの政府見解では、任命は形式的なものであり、会議からの推薦に基づいて行うとしてきました。

今回、会議の会員6名について、首相は任命を拒否したのです。菅首相はこれまでの政府の見解、解釈を変えたのでしょうか。

この問題は、憲法に関係しています。今の憲法では23条に「学問の自由」が明記されていますが、この規定は明治憲法にはありませんでした。

このことについて、私が尊敬する日本を代表する憲法学者である芦部信喜氏(駒ケ根市生まれ、伊那中学校(現伊那北高校)を卒業し東京帝国大学を経て東大法学部教授)は、次のように解説しています。

「学問の自由ないし学説の内容が、直接に国家権力によって侵害された歴史を踏まえて、特に規定されたものである。」と芦部の著書である「憲法」(岩波書店173頁)に記されています。

そして、「時の政府の政策に適合しないからといって、学問研究への政府の干渉は絶対に許されてならない。」(同書175頁)とも記述しています。

私は芦部氏の解説を読んでも、学術会議の推薦のとおりに首相は任命するのが筋だと考えます。

私はこうした政府の動きが、「政府を批判する者は排除する」あるいは「政府の方針を批判する公務員は左遷する」ということが、普通に行われるようになることを恐れます。

民主主義を実現していくには、様々な意見が言える環境にしていかなければなりません。